そうめん発祥の地、奈良県桜井市の三輪。そうめん製造販売会社の株式会社三輪山勝製麺は彼の地に、創業200年以上続くそうめんづくりの“老舗”である。
株式会社類設計室の農園事業部(類農園)は2022年、三輪山勝製麺と協働して開発した類農園オリジナル商品「本格そうめん」を発売した。「本格そうめん」は好評をもってお客様に受け入れられ、たちまち直営販売所の人気商品となった。

三輪山勝製麺と類農園は協働を続け、「本格晴れの日うどん」「本格らーめん」というオリジナル商品を発売した。「本格そうめん」同様、いずれも売れ行き好調で、今、販売スタッフが胸を張っておススメする商品となっている。
なぜ、三輪山勝製麺と類農園はコラボし、ヒット商品を生み出せたのか。
三輪山勝製麺代表取締役・山下勝山氏と弊社農園事業部事業部長の原大輔が対談し、その秘密を語った(以下・敬称略)。
原「オリジナル商品は弊社の社員からも人気で、購入社員から『なぜ三輪山勝さんとコラボしたんですか』と聞かれることがあります。三輪山勝さんと協働を始めて実は、まだ10カ月ほどなんですよね」
山下「類農園さんと商品を一緒につくったのは、それはやっぱり原さんがいてくれたから(これを聞いた原が笑う)。ポリシーを持ってやってくれるからです」
原「最初の出会いは、弊社が開催した販路拡大支援事業に参加していただいたことからでした」

山下「はい、それがきっかけです。お付き合いを始めてすぐに、類農園さんにはうちの商品の価値を分かってくださるお客様がいると分かりました。そういうお客様がいるのは類さんがポリシーを持って経営しておられるからだと思います。あと、商品化に向けての対応がスピーディーだったのも印象的でした」
原「ありがとうございます。ところで三輪山勝さんが商品をつくる上で大事にされていることはなんですか?」

山下「基本は、絶対に美味しいということです。それと、安心安全であるということ、適正価格であるということ、です」
原「それぞれについてお聞きしたいんですが、山下さんのお考えになる『美味しい』について詳しく教えてください」
山下「はい。どんなそうめんが美味しいかということを説明する前に、従来のそうめんの味がどうだったのかという点が重要になってきます。その話は少し後でお話するとして、まず前提としての『そうめんの歴史』を知っていただきたいと思います」
■老舗のあり方とは

山下「そうめんは元々、中国から伝来したものです。唐の時代、日本では奈良時代に、かりんとうのようなお菓子としてやってきました。その形が手でねじられたようなものだったのです。
それで、かりんとうのようなお菓子は『索餅(さくべい)』と呼ばれました。日本人はそれを変化させ、日本人の味に合うようにしました。最初は中国から来たものが、日本人の感性で日本独特のものにつくりあげました。日本人は工夫して、手延べの技術を発達させて、この三輪の地で、今のそうめんのような形になったのです」
原「そうなんですね」
山下「うちの話なんですが、大昔の道具が出てきたことがありました。親父に『うちはいったいどれくらい続いているのか?』と聞いたところ『分からん』と(笑)。それくらい昔からそうめんづくりをやっていたんです。ここ(三輪山勝製麺があるところ)は昔お伊勢参りの街道だったんです。当時、男は一生に一度は伊勢参りをすべしと言われていたようですね。そんな時代から手延べそうめんの技術を伝えてきたんです。私も、親父から手延べでいかに細い麺をつくるかという技術を教えられました」
原「そういう技術が大切なんでしょうか?」

山下「いえ、そうじゃないです。『細い麺が良い』となったのは主に戦後です。そのわけは強力粉が思うように使えるようになったからです。強力粉にはグルテンがたくさん含まれていて、細く延ばしても麺が切れない。それで見た目がいいので細くした。当時は機械を使わない手延べが中心だから、職人に技術がいる。それで品評会で、いかに細く延ばされた麺かが競われるようになったのです。
しかし、味はどうでしょう。私は美味しくない、正直にいえば、まずいと感じていました。『職人が手づくりでつくったから』『どこよりも細いから』というのが、味につながっていないんです。
なぜまずいのか。その理由の一つは、細くすることが第一で、味が一番ではなかったから。
技術は本来お客様が喜ぶためのもので、それがないものは職人のひとりよがりです。そんなこともあって、私は本当に美味しいそうめんを一からつくることにしたんです」
■相手発から生まれる
原「そこでグルテンを少なくした美味しい麺をつくろうとしたんですね」
山下「はい。しかし、先にも言ったようにグルテンが少ないと麺が切れてしまって、延ばせない。細くし過ぎなくてもいいけど、ある程度は延ばさないといけない。そのためには、小麦に入れる塩と水が重要だと気付きました。水はいろいろ試して延ばすことに最適なミネラルを含んだ水をみつけました」
原「弊社のオリジナル商品もグルテンが少ないわけですね。すばらしい商品をつくっていただいて、ありがとうございます。小麦にもこだわりがあるんですよね」


山下「はい、いろいろと研究しました。元々、昔からそうめんに使われていた小麦は美味しくなかった。そこで製粉会社さんに協力してもらって、小麦本来の風味が感じられる、麺づくりにふさわしいものを使用しています」
原「弊社のオリジナル商品は、厳選した複数小麦を独自ブレンドしてもらって、旨味、甘味、香りにこだわった贅沢なものを使ってもらっています。塩はどうなんでしょうか」

山下「天日塩を使っています。小麦と合わせ低温熟成させて麺を強くし、グルテンが少なくても延ばしていけるようにしています。
さて、小麦本来の旨味、甘味、香りを引き出すことも大事ですが、そうめんの味を妨げてしまうものがもう一つあります。それは使用している食用油の酸化です。そうめん独特の臭い、その原因は油の酸化にあるんです。それがまずさにつながる一因になっています。
なぜ油を使うのかというと、麺同士がくっつかないようにするためです。それと急な乾燥を避けるなどの理由があります。いずれにせよ、そうめんのあの臭いは油由来なんです。それで、なんとか油を使わず、麺がつくれないかと試行錯誤して吉野葛(くず)を使うことで、それを解決しました。
味を決めるのは、職人の技術と原料の質です。ただ全体の8割くらいは原材料の良し悪しで決まると思います」


原「三輪山勝さんの商品づくりは、お客様発、相手発から生まれていますね」
山下「老舗はその味をずっと守っていくという考え方もありますよね。でも、それは違うと思うんです。その時代、その時代のニーズに合わせた味を求めて変えていく。それが正しいのではないでしょうか。伊勢の名物に赤福餅がありますよね、そちらの代表と話した際、代表が『うちは5年ごとに、味を見直しています』とおっしゃっていました。これが本来の老舗のあるべき姿だと思うんですよ。たとえばお菓子でも昔は甘いものが好まれましたが今は違いますよね」
原「ヘルシー、健康志向の時代ですからね」
山下「そうです。しかし、そうめんって一見ヘルシーのように思えますが、麺の中で最もカロリーが高いんですよ。それは油を使用しているからです。時代を考えるなら、つくる側はなんとかしなければならない。それで、私どもは油ではなく吉野葛を使うことにしたんです」
■類農園と三輪山勝製麺が協働する理由
原「山下さんは徹底してお客様に目を向けられています。私どもは野菜をつくっていますが、三輪山勝さんの考えと通じる『お客様が欲しいものをつくる』、そういう考えの中で、有機野菜をつくっています。動物性の堆肥は使わず植物性のものにとことんこだわる循環型農業です。生産も販売も、技術はありますが、それはお客様のニーズを汲み取ったところから生まれたものです」
山下「さっきも言いましたが、類さん、いいお客様をお持ちですもんね」

原「はい。先ほど、私たちは技術を持っていると話しましたが、お客様はそれに価値があると思ってくださっています。だから安売りではなく適正価格で販売できる」
山下「うん、うん。お客様が喜ぶものをつくって売っているということですね」

原「あと、私どもの特徴として、生産者でもあり販売者でもあるという点があります。それは強みと言ってもいい。だから、自信を持ってお客様に商品を販売することができます」
山下「私が類さんのお店で実演販売したときにも、お店のスタッフの方がとても熱心だと思いました」
原「店づくりでずっと意識しているのは、お客様も仲間だという点です。スタッフも同じように思ってくれています。だから、うちで売れるか売れないかは、スタッフが本気で売りたいかどうかによります(笑)。三輪山勝さんと私どものオリジナル商品はスタッフが本当に熱心に販売しています。山下さんが実演で見せてくれた湯がき方を、自分でも真似して売っていましたから」
山下「ほんまに偉いねえ(感心した話ぶり)。商品の価値を分かったお客様が来ているように思えます」

原「つくる人間も、売る人間も大事なのは気持ち。皆の気持ちが一致していないとお客様に満足を差し上げられない。あと、充足する空気感を大切にしています。それがお客様に伝わり、連帯感になると思っているんです。
三輪山勝さんとは協働のパートナーとして今後も続いていきます。本日はありがとうございました」

「本格そうめん」「本格晴れの日うどん」等のオリジナル商品は、三輪山勝製麺、類農園の協働の成果である。今回の対談で分かったのは両社が「徹底したお客様発(=相手発)」の想いを持っているということ。
日本の「食」業界を見渡せば、人々の嗜好の変化や多様化等もあって、どの業態でも競争は強まっている。もちろん、そうめん業界も例外ではない。そういう時代の流れの中で、山下氏も「挑戦する人」が故、困難にぶつかったこともある。
そんなとき、付き合いのあった、日本を代表する料亭の代表が山下さんに声を掛けた。「あなたのつくるそうめんの素晴らしさは知っている。これまでと変わりなく応援するから」。山下氏の目に熱いものが込み上げてきた。
「もう一度『お客様が本当に美味しい、安心安全だと思うそうめんをつくってみよう』と思ったんです」(山下氏)
有機野菜だってそうだ。化学肥料を使い、除草剤をたっぷり撒けば効率がいい。だが、そうはしたくない。お客様は美味しい安心安全な野菜を求めている。
類農園、三輪山勝製麺はともにお客様を想い、これからも本源を追求していく。