社員全体で人間本来の暮らし
を体現する建築を考える

コンペティションテーマ:社会と繋がる共同体の暮らし
建築家 藤本壮介 × 建築家 金野千恵 × 類設計室

類設計室創立50周年を記念した社内設計コンペティションを実施しました。11チーム(52名、内訳:設計37名、教育4名、農園2名、秘書2名、広報1名、内定者2名、類学舎生4名)の応募があり、2022年11月、1次審査を突破した5チームを対象とした公開2次審査と審査員4名によるトークイベントが行われました。

[ 課題とテーマ ]
社会と繋がる共同体の暮らし

[ 計画地 ]
大阪都心から北に20kmに位置するニュータウン。類設計室が所有する約26haの丘陵地「アドベンチャーフィールド」と彩都西駅の「彩都類ビル(類農園直売所 彩都店)」を活用した提案を求めました。

Map data ©2023 Google

審査を通じて、共同体のこれからを追求

5チームによるプレゼンテーションを受けて、審査員による公開2次審査を実施しました。最優秀賞を特定する過程では、コンペテーマを掘り下げるとともに、「共同体の開き方」「暮らしのリアリティ」「自然を相手にした時間尺度」など多岐にわたる議論が行われ、次の50年に向けた共同体・類設計室の方向性に示唆を与える場となりました。

全体総評

藤本壮介

「社会と繋がる共同体の暮らし」は、まさにこれからの時代を象徴するテーマでした。私自身、社会の全体像に近づくには、あらゆる分野、仕事に飛び出してみる必要があると思っていますが、類設計室では教育や農園事業など、そうした実践を長年されています。その実践は応募案にも表れていて、周囲のまちやランドスケープ、資材の循環、あるいは建築を建てた後も人や自然を含めた周囲の環境を見据えていくことなどを、さまざまな視点から考えられていました。

審査では、提案内容が建物に収斂(れん)していくほど、それが際立ちすぎるあまり、周囲との繋がりが希薄に見え始めてしまうという葛藤が論点になりました。今日のプレゼンを見ても、各チームがさまざまな葛藤を乗り越えて建築を描いてきたことが分かります。結果的に強い形態を持ちながらも、それを自然との関係を含めた共同体のあり方にまで昇華させた「~めぐる~」の案が最優秀賞を獲得しましたが、このコンペで発見した葛藤は私自身も深く考えていく余地があると思っています。

金野千恵

私自身、建築をつくることは何かを建てるだけではないという意識で日々を過ごしていますが、このコンペティションはそれを深く見つめ直すことができるよい機会でした。審査は、そのまちに暮らす人間として訪れた時にどんな体験ができるのか、それをどれだけリアリティを持って想像できるかを評価軸として重視しました。

どの案も、建築を建てるだけではなく描いた風景を根付かせていく過程まで丁寧に検討されていたり、人間中心ではない自然を相手にするための時間尺度を設定されていたりと、類設計室の、社会の総体の中で建築の役割を考えるという姿勢が色濃く表れていたと思います。それが特に顕著に出ていたのがチームの構成メンバーです。事業部を問わず多世代が参加したコンペだからこそ、提案の説得力を感じました。

Special Talk|建築家 藤本壮介 × 建築家 金野千恵 × 類設計室

「建築の領域を広げ社会と繋がる」というテーマについて、第一線で活躍される藤本壮介さん、金野千恵さんと、類設計室(安藤、橋本)で対談を行いました。
対談では、コンペティションのテーマである「社会と繋がる共同体の暮らし」を切り口に、それぞれが考える今の「共同体」について、そしてなぜそれを考えるべきかをお話いただきました。

対話を通じて、「人間を社会的にカテゴライズすることの矛盾」「(高齢者や子どもたちなど)地面に根差している人たちが豊かに振る舞える場」「役割を分ける前の未分化の価値」などの視点が出されました。改めて、人間本来のあり方に立ち戻り、そこで生み出された関係がこれからの共同体をつくっていくこと、建築は社会や共同体に場を与えていく責務があることを共有しました。

また、会場には社員だけでなく、類学舎の子どもたちも参加したことから、これからの50年を考えるために必要な視座について、藤本さん、金野さんよりお話いただきました。

詳しくは「新建築2023年1月別冊」をご覧ください。

藤本壮介

藤本壮介建築設計事務所 代表

1971年北海道生まれ/ 1994年東京大学工学部建築学科卒業/ 2000年藤本壮介建築設計事務所設立/ 2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の会場デザインプロデューサーを務める

金野千恵

t e c o 主宰

1981年神奈川県生まれ/ 2005年東京工業大学工学部建築学科卒業/ 2005~06年スイス連邦工科大学 奨学生/ 2011年東京工業大学大学院博士課程修了,博士(工学)/ 2011年KONNO設立/2015年~teco / 2021年~京都工芸繊維大学特任准教授

安藤太地

株式会社類設計室 企画部次長

1979年埼玉県生まれ/2005年北海道大学大学院建築都市空間デザイン専攻修了/2005年類設計室設計事業部入社/コンペ・プロポーザルの推進役を担いつつ、企業・大学の共創拠点を手がける

橋本宏

株式会社類設計室 企画部次長

1983年香川県生まれ/2007年神戸大学大学院修士課程修了/2007年類設計室設計事業部入社/教育・企業・地域の変革プロジェクトの構想計画を担いながら、建築の領域を超えた事業企画も先導する

Pick Up |コンペティション審査会の舞台裏

2022年11月に開催された公開2次審査会の様子をご紹介します。

大阪本社ビル2階で開催された公開審査会の様子。各チームが模型も用意し、白熱したプレゼンが行われました(写真はチームC)。
チームCは検討過程のスケッチを冊子にまとめ、プロセスの緻密さも提案しました。
チームEは、設計×塾の混合チームによる提案でした。
チームEの提案は、焼畑農業にヒントを得て、農業の時間軸を中心に農地と建物が循環する提案でした。
チームHは模型を通じて、審査員との対話を重視したプレゼン。
チームHは銭湯を中心に、木立の中に複数の屋根とボリュームが挿入され、お隣さんとの対話をやわらかく生み出す提案でした。
チームIは、万物のエネルギーをテーマに、原木椎茸の原木が遊歩道や再生エネルギーに転換する特徴的な提案でした。
審査は公開され、各委員による選定案と理由を元に議論。決選プレゼンを経て僅差の末、最優秀賞はチームKに決定されました。
最優秀賞に決まったチームKには、藤本さん自らがトロフィーを手渡されました。
チームKの提案は、自己完結性が議論のテーマになりましたが、コンペテーマである「社会と繋がる」を考える上で、多くの人を惹きつける案として評価されました。
トークイベント後には懇親会を開催。類農園の食材と地域の飲食店が協働した類設計室らしいおもてなしで、審査員の皆様に感謝の気持ちをお伝えさせていただきました。
懇親会は和やかな雰囲気で開催されました。
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