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日本を代表する冬季オリンピックの
メインスタジアムの設計

長野冬季オリンピックメインスタジアム

原日本人のルーツ、
世界の人々の集う場

時には豊かな恵みを与え、時には猛威を振るう自然。原日本人のルーツ、縄文人は自然を畏怖し、山の精霊を「サの神」と称し、山の神の宿る木=神の座する場を「サ座」(さくら)と呼んでいました。
 神の宿る木に花の咲くとき「サの神」を言寿ぐ。これが式典や花見=祭りの源流で、以来桜は特別な儀式に用いられ、日本人の美意識の象徴となりました。
 過度の物質文明や人間のエゴへの反省から、私利私欲なく、自然と共存してきた縄文人の文化は、時を超えて憧憬や尊敬の想いを集めています。
 縄文文化圏に属する長野の地、世界の人々の集う場で、世界に向けて、「21世紀の人類へのメッセージ」を。
 縄文人が称えた「さくら」にその想いをこめてデザインしました。

無数のイメージの中から生まれた「サの神」

日本人の本源性を発信する「世界舞台」にふさわしいデザインとして、具体的な形態に至るまでに、様々なスタディーが重ねられました。アイデアの中には「火炎土器」「御神木」「鳥居」「精霊の森」などもイメージされ、アイデアスケッチはスケッチブック数十冊にも及びました。
 そんな無数のイメージの中から、「サクラ」のモチーフに辿りついたのは、大阪・東京設計部から約60名のメンバーが参加した「コンセプト会議」。ここではコンセプトからデザインに至る経緯の共有、作品としての質をどう向上させるか、階段やエレベーターシャフト、トイレにいたるまで、生命感あふれる有機的なデザインの実現に向けて議論がされました。

花びらの柔らかさを実現したい

3階スタンドの各ブロックを花びらや萼に、正面の塔を花柱に見立て、水平に走るブリッジがこれを束ねます。トイレや給排気棟はつぼみに、1階のメモリアルホールは根をイメージして形を決めました。
 花びらのデザインは、たたみ2畳分もの大きな模型を取り囲みながら、配置からディテール、さらには夜間のライトアップまで議論が重ねられました。シミュレーションソフトのない当時、夜間のライトアップ計画は模型に光ファイバーを取り付けて、デザインの確認を行いました。
 また、最も力を入れた「花びらの柔らかさ」の表現では、コストの壁により3次元曲面を用いたデザインを断念するなど逆境の連続。試行錯誤を繰り返し、辿りついたのが現在のデザインです。

日本の熱意と技量を世界に示す

長野の力強い自然に呼応しかつ極限まで溶け込むことを願い、素材に素地仕上げのPCaやコンクリート、石を用いました。それは自然の中に建築を開放し、原始の住居のように自然と同化した素朴なものへ、そして自然観に根付く日本特有の美意識へ迫ろうとしたことにほかありません。
 空に伸びるように湾曲する「PCa花びら」は、2階コンコース床から立ち上がる現場打ちコンクリートの壁柱で持ち上げました。花びら1枚1枚をひとつのエリアと見立て、各エリア毎に動線を分けて、わかりやすさと避難安全性を確保しました。 この有機的な建築は、優秀な日本のゼネコン、ファブリゲーター一人ひとりの熱意と技量を世界に示す機会ともなりました。

長野の地に生命を吹き込む

スタジアムに併設して整備された体育館・プール棟は、木造キール梁が縦断するダイナミックな造りとなっています。「木の葉」をイメージした柔らかな屋根は、メインスタジアムに呼応する造形を描き、長野の盆地を取り囲む周囲の山々、ランドスケープとも一体となって長野の地に生命を吹き込みました。