Shimadzu Tokyo Innovation Plaza
2022年 神奈川県川崎市
建築ツアー編
魅せるラボをめぐる
ここは、教育用理化学機器製造に端を発し今や世界的な分析計測機器、医用関連機器、航空関連機器、産業機器のメーカーである島津製作所のラボです。エントランスを入ると目の前に現れるのが大きな吹き抜け。見上げる先には大きな球体(Globe)と、天から降り注ぐ陽射し。これが訪れる人に強い印象として脳裏に刻まれます。そして吹き抜けの向こうには全面ガラス張りの研究室。島津製作所の活動拠点に深く入り込む感覚を覚える、オープンなラボなのです。
敷地は、ライフサイエンス、環境、医療分野を中心とした川崎市の研究開発拠点「キングスカイフロント」。島津製作所も他社へのサポート、連携を行う研究開発拠点として本施設をつくりました。業態の性質上閉じることの多いラボですが、ここでは自社を理解してもらう、他社と連携するためのオープンな空間を誰もが体験することになります。
意外な印象から始まる
ラボ体験
主動線を構成する吹き抜けと大階段、吹き抜けに面した全面ガラス張りラボ、1階 Exhibition

エントランスホールに入ると目に入ってくるのが、大きな吹き抜けと階をつなぐ大階段。吹き抜けを見上げると大きな球体(Globe)が浮かんでおり、その上部のトップライトから自然光が降り注いでいます。エントランスホールから四方を見渡すと、全面ガラス壁の向こうに機器が並ぶ大空間が目に入ります。これが、訪れる人の第一印象になります。そのとき多くの来訪者がこの施設について興味をもち始めるのです。


吹き抜けを含む広いエントランスホールの一角には、先端的な取り組みを続けてきた島津製作所の歴史と、人々の暮らしを支える製品・技術を紹介するExhibitionがあります。
ここでは、本施設の紹介から始まり、これから巡る各ラボのテーマに沿った展示、医療用X線検査装置の製作成功といった日本の近代科学史を振り返る展示などがあります。1875年の創業以来の取り組みが、来訪者と島津製作所をつなぐきっかけとなります。
天井高5m
全面ガラス張りラボ
1階 Material Science Laboratory

1階で、何より目を引くのは、天井高5mを全面ガラス張りにした本施設最大のラボ「Material Science Laboratory」でしょう。ここは材料・物性計測系ラボです。材料引張り試験などの大型計測機器が使われるので、この天井高さとなりました。本施設のラボで実施されている研究開発は、サンプルデータ構築やアプリケーションの開発が主で、さまざまな計測試験が行われています。その風景を「魅せる」ことで、関心をもってもらうとともに理解を深めてもらい、来訪者との関係を構築することが、本施設のコンセプトです。どのラボもガラス張りかつワンルームで、一目で見渡すことが可能です。
そして吹き抜けの大階段を上がった、最初の踊り場(Overview Deck)。そこは1階Material Science Laboratoryの全域を一望できるポイントです。


ラボ内の実験台めぐり
2階 Optics Science Laboratory、3階 Green Science Laboratory

2階に上がり、いよいよラボ内へ。特徴はアイランド型の実験台です。実験台が連続して環を描き、研究者は外側に座ります。実験台上には島津製作所の機器が並んでおり、常時稼働中。実験台と機器が調和するような色味になっており、シンプルで端正な印象です。ところが、内側を覗いてみると、機器の背面から生えたさまざまな配管・配線がびっしり繁茂し、アイランド中央の太い柱に向かって伸びています。ラボを間仕切り壁なくワンルーム化するときの課題のひとつに、給排水、給排気、電源などの実験ユーティリティの敷設があります。ここでは建築の柱にすべての配管・配線を集約し、柱を実験台で囲うようにデザインされています。そうすることでユーティリティのアクセスポイントを集中させ、シンプルなワンルームのラボを実現しているのです。
機器のセッティングは、アイランドの内側で行います。同種の実験がひとつの島に集められていますが、再設定の頻度や機器の形状に応じて、内側の配管・配線を収納するパネルが設けられています。

見せるワークスペース
2、3階 Officeとフリーアドレスポイント

2階のラボとラボの間には、吹き抜けに面して間仕切られたテーブル、ソファ、個室防音ブースが並んでいます。 ここはマルチなワークスペース。来訪者との打ち合わせにも、フリーアドレスで社員が使うこともできます。業務を行うOfficeは3階ですが、そのエリアも全面ガラス張りで、雰囲気が来訪者にも伝わってきます。

そして集いの場へ
4階 ICHIHANA Hall・Main Hall

吹き抜けを4階まで上がると、1階から見上げていた球体が目前に迫ります。Globeと呼ばれる球体の直上にはトップライトがあり、太陽の光が降り注いでいます。Globeの内部は円形のホールとなっており、前面曲面にプロジェクションができる平場の空間で、座席の配置は自由に組み替えられます。囲われていることで落ち着きが生まれ、親しみのある距離感をつくり出します。ホール名はICHIHANA Hall。いちばんに、真っ先にという意味の京言葉「一端立つ」に由来します。
同じく4階には学術会議も行える186席の Main Hallがあり、社会、世界に繋がる場としての機能が備わっています。Main Hallの横にあるラウンジからは多摩川と羽田国際空港が見え、イベントスペースやワークプレイスとしての豊かな環境が確保されていると同時に、世界や地域とのつながりも意識できる場所になっています。



イラストレーション|久米火詩
写真|メインビジュアル, 1, 4–9, 11-13:小島康敬





