本の森ちゅうおう
中央区立京橋図書館・中央区立郷土資料館
2022年 東京都中央区
建築ツアー編
森を散策するように
建物をめぐる
緑のテラスが少しずつ自在にズレながら、空に向かって何層も積み重なっている様子が、道行く人の目を留めます。見上げると明かりと人影が見え隠れして、中も気になる建築です。そこで中に入ってみると、徐々に上の階に誘われて、つい建物巡りをしてしまう。そんな立体回遊型がテーマです。
都心にあるけど、自然の中にいるような豊かな空間をつくりたい。そういう想いから森の多様な生態系を参照しました。森の中でお気に入りの場所に出会うように、ここでもそんな場所が見つかります。樹林が高さの違いで性格が変わるように、建物も階を上がるごとに性質が変わります。このユニークな建物は、東京都中央区の京橋図書館と郷土資料館を統合した新たな複合施設です。
地中から
地面に顔を出す
1階 エントランスホール

入口から中に入ると、拍子抜けするほどシンプルなエントランスホール。少し暗くて、ひんやりした、ちょっと洞穴のような雰囲気で、外観の印象とまるで違います。窓も何もないけれど、ひとつだけ天井に空いた穴から光が注ぎ、そこから降りている階段に誘われるように、上の階へと足が向かいます。

上がって目に入るのは、植栽の広がる庭園です。土の中から地上へ抜け出したような解放感。ここから図書館の始まりです。この図書館は地面から高木の梢まで、森の階層構造にならって構成されました。1階が地中の林床、この2階が地面の草本層。さらに階を上がるごとに、低木層、高木層と、森のより上層の環境が参照されています。
都心に息づく
小さな森
2階 つどいの森

2階からすぐ外に出られます。そこは草木が茂る「つどいの森」。足下には野芝をはじめ、コグマザサ、ヤブラン、シバザクラなどの下草や、ヤツデ、センリョウ、ツツジなどが生い茂り、見上げるとケヤキ、シラカシ、カツラ、クスノキ、ヤマモモなどの樹木が枝を伸ばします。この森はまだ生まれたばかり。樹木はどんどん背を伸ばし、やがて建物に迫ってゆくでしょう。外の大通りから大階段を上がって通り抜けもできる小高い丘の森です。階段先の地面は自然に起伏しながら、そこに小径が延びてゆきます。


「こどもコーナー」のある2階は子どもが集まる階。靴脱ぎで入るガラス張りの「おはなしのへや」では読み聞かせもできます。心の赴くままに本を手にする—— それは子どもにとってとても大切なこと。ゴロゴロ、ノビノビ、いろんな姿勢で本を読める場所が、あちこちに用意されています。そしてこの階、屋外の森につながっているので、子どもたちも行ったり来たり。


お気に入りの場所を
見つけよう
3、4、5階 閲覧席





大人は2階へ上がると、目の前のエスカレーターに誘われてそのまま3階へ。そこはメインカウンターのある図書館の中心部です。振り返ると書棚の並ぶ本の森。書棚は大人の背より低く、端まで見渡せるフロアです。遠くに見える、あそこには何があるんだろう?と気になりながら、ついつい散策してしまう図書館。そしてどうしても目が行くのは、どこにいても見える全面ガラスに広がる屋外の景色です。つい足を向けてしまうガラス壁。そこで出会うのは、思い思いに腰掛けて本を手にする来館者たちです。ソファ、スツール、デスク、チェア、カウンターと、さまざまなスポットでさまざまな人たちが、自分の居場所を築いています。背後には全面ガラスと外の景色。柔らかい北面の自然光に包まれながら、至福の時を過ごすのです。こんなに空に近い図書館は他にないでしょう。この図書館は、実に絶妙な場所に閲覧席が設けられています。階段下に窓際など、あらゆるスキマに配置されています。そして屋外テラスにも。お気に入りの場所を探して歩き回ってしまうのも、この図書館の特徴です。


テントウムシのように
上へ向かう
どこからでも見える階段

歩いているうちに、つい上の階へ足を向けてしまいます。館内を巡りながら、気づけば最上階。思い返してみると、遠くに階段を見つけては近づくのですが、いつも上りだけ。なぜでしょう?それは階段が上下2フロアだけをつなぐ直通階段だからです。このような2フロアをつなぐ階段が、4箇所に分散配置されていて、自然と館内を散歩するような動線になっています。敷地に限りがあり、上下に広がる図書館に回遊を生み出すための工夫です。もちろん一気通貫に上下移動できる非常階段やエレベーターは設置されているので、ルートは選んで移動できます。

そして屋上へ
屋上庭園

ついに屋上へたどり着きます。そこは芝の広がる屋上庭園。奥の展望台にもうひとつ上がると、ビル群がどこまでも続く都心の風景が広がります。眼下にはいままで窓越しに見てきた森が、ビルの谷間に息づいています。大通りの向こうにも、大樹が連なる緑地帯。そして屋上先端には神代桜の幹が1本。桜の時期が待ち遠しい。森林の階層構造でいうと樹上にあたるこの屋上は、とても空が広く、中央区八丁堀の空の美しさを改めて再発見できる場所なのです。


イラストレーション|火詩
写真|メインビジュアル, 1-4, 6-8, 10-16, 18:小松正樹/5, 9, 17, 19:坂本泰士





