光と風に包まれた
立体的なオフィス

酉島製作所 新本社工場ビル2021年 大阪府高槻市

設計技術編

トリシマの次なる100年を担う新本社

本社 外観

酉島製作所は世界のライフラインを支える国内屈指のグローバルポンプメーカーです。類設計室が同社の創業100年を記念したこの新本社工場ビル計画をスタートしたのが2018年の5月でした。1〜3階には工場・ギャラリー・会議室・実習センターを、4〜6階にはオフィスを配置した複合施設です。
コンセプト立案当初から大切にしたことは、「社内の一体感」を実現すること。フロアや部門を超えた連携・協働を促進するボーダレスなオフィス空間を実現するために、吹き抜けを中心に各フロアを半階ずつずらしながら繋げる「ワンルーム・スキップフロア」を提案しました。
「一体感」の実現と同時に追求した課題が「環境性能の向上」です。熱負荷を低減する建築計画、空間ごとに最適化を図る設備計画、吹き抜けを活かした自然エネルギーの活用などの工夫を重ねた結果、BEI 値=0.59をマークし、ZEB Oriented認証(オフィス部分のみ対象)を取得することができました。

 

平面図
断面図
ページトップへ

吹き抜けを環境装置として活用し、光と風を導入

熱負荷を低減するための建築的な工夫として、負荷変動の多い東西を窓の無い壁面とするとともに、南面には庇を設けることで外皮負荷を抑える計画としています。その上で、オフィス空間の換気に伴う外気負荷と人員による潜熱負荷(湿気)の負荷を低減する設備計画を重点的に検討しました。
まず、社員の多様な働き方に合わせるため、空調熱源は中央熱源方式ではなく省エネルギー性と個別制御性に優れた個別空調方式を採用しました。外気取り入れは外気負荷を抑制できるヒートポンプデシカント調湿外気処理機を採用。室内機は高顕熱型の空調機を採用することで、潜顕分離型の省エネルギー性の高い空調計画としています。

ハイサイドライト検討図

自然エネルギーの活用、という観点では吹き抜け上部に自然通風用の排気窓を設置したエコチムニーを配置し、積極的に自然通風を利用できるようにしています。空気の取り入れについても、オフィス側で任意に窓を開閉することで自然通風を取り入れられる計画とし、社員の多様な働き方に合わせた環境づくりを意図しました。
同じく吹き抜け上部には自然光を取り入れるハイサイドライトを配しています。夏期は光拡散フィルムを通して全体を照らすように、冬期は反射板を使って最下階である4階まで光が到達するように、BIMによる照度検討を行い、窓や反射板の大きさ・設置角度を決定しました。竣工後何度も訪れましたが、オフィスの中心である吹き抜け空間に、季節を問わず柔らかな光が降り注ぐ空間が実現できたと思います。

吹き抜けまわりの空調概念図

一方、3層吹き抜けのスキップフロアの特性上、夏期はオフィス最上部に熱溜まりが発生することが想定されたため、ハイサイドライト部から暖気が抜ける流れを作る計画としています。反対に冬期はサーキュレーションファンにより上昇した暖気を居室エリアへ下ろすことで温度ムラを少なくする計画としました。
竣工後にオフィス全体の温熱環境測定(夏期・冬期ともに)を実施したところ、4階から6階までの平均温度差は0.5℃程度と、高い快適性を実現していることを確認しました。この結果は設計時に行った温熱シミュレーションの内容に合致しており、狙い通りの温熱環境を生み出すことができました。

設計時の夏季温熱シミュレーション(開始20分後の温度)
設計時の冬季温熱シミュレーション(開始20分後の温度)
ページトップへ

ものづくりの品質を守る恒温を実現する設備計画

1・2階の工場は、ポンプのシャフトを加工する工場で高さが必要となるため、2層吹き抜け空間としています。
巨大な生産機器に加え、ホイストクレーンを設置する計画のため、空調機器やダクトの設置場所も限られていました。そのような条件下で、「生産機器の高さ付近までの温度を、年間温度差5℃以内に抑える」という高い生産品質を確保するための重要な課題に取り組みました。これは、加工される金属の膨張率の違いから季節ごとに製品寸法にばらつきが出ないようにするためのものです。
この課題に取り組む上で、まず着目したことは、室内温度への影響が大きい外気の導入量を抑制することでした。ここでは、取り入れる外気の温湿度をエアハンドリングユニット(清浄な空気を給気するための空調設備)によって調整できるようにしました。さらに、工場入口のシャッター上部から空調された空気を吹き出すことで、シャッター開閉時の外気導入による温度変化を抑制するよう工夫しています。
また、可能な限り生産機器の設置スペースを確保するため、内部負荷処理用の室内機は天吊り形式としています。加工時に発生するオイルミストによる室内温度への影響も課題でした。空調機にはオイルミストガードを設置した上で、酉島製作所様側で水溶性の切削油を使用いただいたり、ミストコレクターを生産機器ごとに設置いただいたりと、設計時に運用まで含めた十分なすり合わせを行うことで、本計画が実現しています。
オフィスと同様に、工場内も竣工後に温度計測を行いました(夏期・冬期ともに3日間実施)。その結果、計測期間中の空間全体の平均温度が目標値以内に収まっており、製品の製作精度が保たれる環境がしっかりと作られていることを確認できました。

工場空調システム概念図
ページトップへ

建築概要

用途  |事務所・工場
建主  |酉島製作所
施工  |松尾建設・テクノ菱和・弘電社
延床面積|14,819.71㎡
階数  |地上7階
構造  |SRC造 一部S造

設計者

  • 土屋範明
    つちや・のりあき
    大阪設計室 設備設計部課長

    1982年神奈川県生まれ。2005年明治大学理工学部建築学科卒業。2007年 明治大学大学院理工学研究科建築学専攻修了後、類設計室入社。