軽快で開放的なRC造を実現する構造システム

葛飾区立水元小学校は、子どもたちの創造性を発揮する学びの場であり、地域住民の心の拠り所となる「のびやかに、活力ひろがる心と学びの場」の実現をコンセプトとしています。大地と自然に近く、明るい校庭に面した開放的でのびやかな校舎を目指し、自然豊かな環境に溶け込む校舎とするためにさまざまな工夫を凝らした構造架構を提案しています。

 

【階数と高さを抑えて大地や自然と調和する校舎】、【柱梁サイズの最小化を図り木造校舎のように軽快で開放的な構造フレーム】、【フレキシビリティを阻害しない耐震壁計画】を実現することが課題となっています。

 

上層をセットバックさせて段丘状に広がる勾配屋根には木質ハイブリッドを用いて軽量化を図りながら、開放的で温かみのある教室としています。屋根を軽量化することで躯体断面を抑えながら、最小限の耐震壁で柔軟性の高い計画としています。前面ファサードの柱見付は、500mmまで縮小し、RC造でありながら軽快で開放的な表情を実現しています。

外観パース

今回特に取り組んだのは、フレームから外れた壁を生かした靭性型の耐震壁システムの構築です。柔らかなフレームに粘り強い壁を組み合わせることが、最小限の壁で柱梁サイズを最小化する道筋でした。計画上必ず登場するフレーム外の階段室の壁を構造的に生かした計画とすることで、建築計画の自由度をさらに広げていくシステムとなります。

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靭性型のラーメン構造にフレーム外の壁を組み込む

開放的で地震にも強い安心な校舎を実現できるラーメン構造を基本としながら、フレーム断面の最小化を図っていくことが課題となってきます。ラーメン架構内に耐震壁を配置することでフレーム断面を縮小することは可能ですが、強度型の耐震壁が数多く必要となることからフレキシビリティを阻害することになります。そこで、計画上必然的に登場するフレーム外の階段室の壁を利用して、無駄なく架構の合理化を図っていくという目的を実現することに取り組みました。

今回、平面的に対称に配置された階段室の壁は必然的に登場する躯体ですが、フレームから外れていることから、通常であれば耐震要素には見込めない雑壁になります。この壁はフレームの外にあることから、ラーメン架構の靭性能を損なうことはありません。ここに地震力を負担する役割を付加することでフレーム断面の縮小化を図りながら、経済的にも合理的な計画が実現できます。

 

固い壁でありながら粘り強く、靭性に富んだ壁であることから、この壁を『タフネスウォール(粘る壁)』と呼ぶことにしました。タフネスウォールの壁厚は250mm~350mmで、壁端部には壁厚と同厚の内蔵柱とし、柱型のないスッキリとした廊下と階段室が実現できています。

 

タフネスウォールの負担する水平力は30~40%とすることで柱梁のスリム化が図れました。南面の小径柱は見付巾500mm、一般の大梁せいは700~800mmに縮減できました。

タフネスウォールの計画
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壁の回転で境界梁を曲げ降伏させて靭性を確保

タフネスウォールが大地震時にも柔らかく変形し、粘りのある挙動とするために、壁下に杭を配置してやじろべいの様に左右に回転する構造としました。壁が回転して接続する境界の梁が曲げ降伏することで、ラーメン架構と同様な靭性能が発揮されるシステムです。壁下に杭を配置することで、タフネスウォール周辺の荷重は壁から杭に伝達されることから、壁に接続する境界梁の断面配筋が過大にならないように誘導できます。

 

タフネスウォールの地震時の変形と周辺フレームの降伏状態を図と動画で示します。周辺フレームが全て降伏した場合でも壁下に杭があることで常に安定した変形が生じます。また、ラーメン架構に回転する壁を組み込むことで上階の変形が進み、建物全体で地震のエネルギーが吸収できる全体崩壊系が形成されやすくなるというメリットもあります。タフネスウォール自体は、周辺の梁が先行して降伏することからせん断に対しても十分な余力が生まれます。ひび割れを抑止できるタフネスウォールは打放し仕上げとし、コンクリートの素材や建物の構造が感じられるしつらえとしています。

ヒンジ図(X方向)
ヒンジ図(Y方向)

構造シミュレーション(X方向)

構造シミュレーション(Y方向)

タフネスウォールの採用によって、ラーメン方向の耐震性能は、大地震時の層間変形角1/200で建築基準法の1.25倍の耐震性能を確保できています。スリムなラーメン構造でありながら、変形が小さく靭性に富んだ優れた架構が実現できました。このシステムを今後の建築計画にも幅広く採用し、普遍性の高い合理的なシステムとして確立していきたいと考えています。

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建築概要

用途 |小学校
建主 |葛飾区
施工 |(株)金子工務店
延床面|8,105.75㎡
階数 |地上3階
構造 |鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造

設計者

  • 沼田 竜一
    ぬまた りゅういち
    東京設計室 構造設計部次長

    1959年北海道生まれ。1984年東京理科大学大学院工学研究科卒業、同年類設計室入社