創造する時の思考
追手門学院中・高等学校
設計技術編

設計者の言葉を生徒達に
「当事者のプロが語る言葉を生徒たちに伝えてほしい」
追手門学院中高と追手門学院大学の校舎設計を担わせていただく中でのご縁から、今回の特別授業をご依頼いただきました。
追手門学院中高では中高大連携授業の一環で、木村耕太郎先生(中学学年主任)と宮崎崇将先生(経済学部准教授)が協働し、『Otemon Design Award』というデザインコンテストを昨年度から開始しています。今回は、弊社が運営している『こども建築塾』を紹介する中で、是非そのような授業を特別授業として開催していただきたいと依頼がありました。どんな議論をし、どんな過程を経て新校舎ができあがったのか、当事者のプロである設計者が語る言葉を生徒たちに伝えて欲しいという先生方の想いを受け、協働企画が始まりました。
ゼロからイチを生みだす、創造思考を学ぶ
授業の内容を組み立てる際、先生から「生徒たちは建築という大きな話よりも、建築を生み出すプロセスでの生々しい苦悩や発想を聞きたいと思います」というアドバイスがありました。そこで、デザインプロセスの中でも特に葛藤した部分を当時のスケッチと共に、創造する(ゼロからイチを生み出す)時の思考を生徒と共有しました。創造の起点(デザインが生まれる瞬間)は以下のようなときがあげられます。
1.手を動かす(出せるだけ全て出してみる)
2.外からの刺激(思考を広げる)
3.無数にある条件から1つにまとめきる(色んな人を思い浮かべながら統合しきる)


生徒の表情や言葉、感想文からは、
「設計は色んな人の想いを背負って形にしていく仕事。楽しさと難しさがある」
「まず一つのコンセプトを決め、それに沿ってたくさんのアイデアを手で描くことで出し、それらをうまくまとめ上げて一つのものにすること」
など、建築を作る過程の追体験を経て、そこでの格闘と充足の一端をしっかりと感じ取ってもらうことができました。
仲間とともに手を動かし、創造活動を実体験する
次に、「創造の起点」であげたポイントを、実際に手を動かして挑戦してもらうために、立方体が書かれた台紙に「窓を書く」というワークショップを行いました。
1.手を動かす
まず、5分間で思いつく限りの窓を書いてもらいました。
生徒たちは、書いたり消したりを繰り返しながら、とても真剣な表情で取り組んでいる様子でした。

2.外からの刺激
次に、いくつかを映像に映し出し、評価も添えながらアイデアを共有しました。
四角形から三角形、ハート型、さらにはファスナー型等、独創的な窓がたくさんでてきました。

3.無数にある条件から1つにまとめきる
アイデアを全体で共有し、外からの刺激を受けたところで、最後にもう一度、渾身の窓のデザインを一つだけつくってもらいました。最初に出せるだけ出したアイデアと外部からの刺激を掛け合わせ、新たな発想が生まれたことで、唯一無二の素敵な窓を生み出すことができました。
「アイデアは人の数だけあり人の数だけ面白さがある」
「自分では思いつかなかったものがたくさんあって面白い」
「窓の形の固定概念にハマるのではなく、自分でその考えを想像していくのがとてもいい」
などの感想を生徒からいただきました。
私たちが予想していた以上に、生徒から色んなアイデアが出され、またそれをシェアすることでそれぞれのなかに新たな発想が生まれ、今まで思いもよらなかったデザインを生み出していました。ワークショップを通して、想像する時の思考を実感してもらうことができたのではないかと思います。
若者は大人の本気を求めている
特別授業の後に先生方と会話したところ、「今の若者は“大人の本気”を求めている」「大人が本気を出したらこんなにすごいんだ、ということを生徒も感じてくれている様子が見て取れた」とおっしゃっていました。最近の生徒は昔と比べて真面目に学業に取組んでいますが、物足りなさも感じており、このような機会は本当に貴重だと、ありがたい言葉をいただきました。
大人の本気の仕事を伝えるだけでなく、プロとしてはたらく大人も、最初は自分達と同じところからスタートしているということが伝われば、子ども達も展望をもって前進していけるのではないかと期待しています。

建築概要
用途 |中学校・高等学校
建主 |学校法人追手門学院
施工 |竹中工務店・朝日工業社・きんでん
延床面積|13,998.27㎡
階数 |地上4階
構造 |鉄筋コンクリート 一部鉄骨造
設計者
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喜田 育樹きだ・なるき大阪設計室 統括ディレクター
1973 年京都府生まれ。1996 年近畿大学理工学部建築学科卒業後、同年類設計室入社。
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網野 琢馬あみの・たくま大阪設計室 計画設計部
1987 年東京都生まれ。2010 年日本大学理工学部海洋建築工学科卒業。2013 年 Domus Academy Master in Interior and Living Design 卒業後、2014 年類設計室入社。