荒川区立尾久図書館
2020年 東京都荒川区
建築ツアー編
本のみちを散歩して、
ひろばを巡る
東京に残る路面電車・都電荒川線から細い路地を歩いていくと、下町の住宅街の先で突然目に入るのが、開けた公園と尾久図書館です。箱が扇状に周りを向いて並んでいる様子が愛らしい建物。懐かしい煉瓦壁に誘われるように中に入ると、すぐに書棚で満ちた本の世界が始まります。「奥」が気になる図書館です。階段の上に、そして下のフロアのその先に、何かありそうな気配を感じて、先を覗いてみたくなるでしょう。
先には部屋=「ひろば」が連なります。それぞれ世代やテーマの違う別空間です。それらを「本のみち」でつなぐと、思わぬ出会いが生まれるかもしれない。ここはそんな散歩型の図書館なのです。この「本のみち」、図書館を貫いて外へと続き、それはやがて隣接する公園の園路になり、公園も貫いて隅田川へと至る、まちの散歩道の始まりでもあります。
住宅街を
抜けると現れる
まちからのアプローチ

住宅街を抜けると突然視界が開け、公園と尾久図書館が現れます。周囲になじみながら愛らしい箱が並んでいる、少しだけお伽の世界のようなたたずまい。誰もが中を覗きたくなるでしょう。煉瓦壁が延びたエントランスに沿って歩みを進めると、すぐに建物の中へ。次に視界を覆うのは、書棚で満ちた本の世界です。

奥が気になる
図書館
1F 本のみち

エントランスの煉瓦壁は建物の中まで続き、書棚が連なる「本のみち」へと姿を変えます。本のみちは緩やかにカーブしながら、視界から外れていきます。これはどこまで続いているのでしょう。脇には吹き抜けと上り階段。踊り場の書棚が目に入り、上の階が気になります。階段下のフロアも賑やかで、奥に別のフロアも見えている。見え隠れしながら遠くまで視線が導かれる。けれど、見通せない。まさに「奥」が気になる図書館です。気になったら足を運びたくなるのが人の常。そうして回遊性が生まれる散歩型の図書館として計画されました。
本のみちは賑やかな通り。独立書棚や小さな閲覧室「ブックキューブ」が点在して、歩きながら本を手にとったり、腰掛けては歩いたり。歩く人と、座る人の距離の近さが、交流を生みます。ブックキューブの中にも本があり、本を取ろうとしゃがんだときに、子ども目線になれる空間です。


ひとつずつ
性格の違うひろば
1Fひろば

歩く先々にあるのは約10m四方の四角い空間、「ひろば」です。それぞれある世代やテーマを意識した蔵書が並び、1つひとつが性格の違う人の居場所。それを大きな通路「本のみち」がつないで、思わぬ出会いも生まれます。
さきほど見えていた階段下は、少し床が下がって囲われ感がある秘密基地に潜りこむような「わくわくひろば」。小学生の天国です。子どもの本が詰まっている低い書棚がつくる小さな囲みは、子どもが大好きな場所。


そこから緩い階段を上がると「子育てひろば」。同じく低い書棚が丸く囲った床の上で、親子が読み聞かせをしています。カーテンを閉じれば、子どもはさらに本の世界に没入してゆきます。

子育てひろばの書棚の隙間から見えているお隣は「ティーンズひろば」。中高生が集まって、本を片手に学校じゃできない話に花が咲いているかもしれません。

それぞれの世代向けの書棚に囲まれた「ひろば」は、どれも公園に向けて開かれて、公園に面したテラスと行き来ができます。テーブルに座って、あるいは芝生に寝転んで、本を持ち出し屋外の読書を楽しめるのもここならでは。


世代を
つなぐ階段
踊り場の多世代ステージ

1階カウンター前に立つと、上りたくなる階段とその上の踊り場、そして本棚が見え隠れしています。上がってみると意外に広くて明るいフロア。壁一面の本棚に高い天井から自然光が間接的に降り注ぎ、1・2階どちらも見渡せる開放的なステージになっているのです。本棚の上方に本はなく、日射しを遮るルーバーの役目を果たします。ここは1階の子どもフロア、2階の大人フロアをつなぐ結節点。子どもも大人も楽しめる本のある、世代間の交流の場「多世代ステージ」です。大人が子どもとかかわり、その子どもが大人になってまた次の子どもとかかわってゆく世代循環を地域の活力にしたい――そんな地域の願いがこの建物には詰まっています。
180度の視線
2F カウンター前

多世代ステージからさらに階段を上がると、大人のフロア。カウンター前にたつと180度視線が通り、フロア全体を見渡せます。あっちもこっちも気になるものが目に入り、さてどっちに足を向けようか、という気分になるわくわくポイントです。視線の通りの良さは、運営者にとっての管理のしやすさにもつながっています。
2階には同類の書籍が集められたひろばがあります。あるひろばは文化と歴史、あるひろばは芸能とスポーツというように、それぞれで関心領域がつくられます。外から箱に見えた部分がちょうどこのひろば。その分野専門の小さな図書館が軒を連ねたようなかたちです。見上げると天井には木のルーバーから漏れる明かりが点々と連なり、天窓からは日射しの移ろいも感じます。2階は光溢れる優しい空間です。


公園を一望する
2F 見晴らしカウンターとテラス

2階の本のみちの突き当たりは、公園を見渡すカウンター閲覧席「見晴らしカウンター」。遠く隅田川の堤防まで見渡せる、絶好の眺望席です。それぞれのひろばは読書テラスとつながっています。天気がいい日は、ここで屋外読書。この2階のテラスは1階のテラスや地面と距離が近くて会話ができるほど。ここでも交流が生まれます。そして遠くには尾久のまちが一望できます。ここは自分のまちをその目で感じ取ることができる図書館なのです。


イラストレーション|火詩
写真|メインビジュアル, 4:新建築社写真部/1-3, 5-7, 10-18:小松正樹/8-9:坂本泰士






