快適さを追求し、
ひとが持つ本来の
能力を引き出す。

Seiya Yonezawa

米澤 星矢

2015年入社 / 設備設計部

建築士を目指していた同級生の兄の影響で、設計という仕事に関心を持つようになる。中学・高校時代は、カナダ・バンクーバーに在住。山や海など自然豊かな土地での生活を通じて、環境への感受性が育まれた。大学では熱環境を専門とする研究室に所属し、「薪ストーブ1台で家全体を暖められるか」というテーマで探究に取り組む。就職活動では、建築と環境を統合して設計する考え方に共鳴し、2015年に類設計室へ入社。現在は空調と衛生を専門に、研究生産施設や教育施設を多く担当。

お客様の“やりたいこと”に、想いを馳せながら。

私の役割は、お客様の要望を一つひとつ丁寧に聞き取りながら、室内の温度・湿度・換気、さらには水の質や流量まで、最適な環境を設計することです。たとえば、大量の熱を発する装置のある研究施設であれば、それに応じた冷却設備を計画しなければなりません。装置の加熱のための蒸気や、冷却のためにつかう水、さらには酸素・窒素といったガスの配管が求められることもあります。また、近年では、センシングや自動制御といった技術の進化によって、設備を最適に管理したい要望も増えており、設計者に求められる領域も広がってきています。設備設計の使命は、「お客様のやりたいことが、最大限に叶う環境を整えること」。それは快適に過ごすことかもしれないし、集中して作業することかもしれない。あるいは、温度や湿度を一定に保つことかもしれません。そのすべてに応えるために、まずはお客様の声を丁寧に聞くところから始まります。その施設で何を実現したいのか。それを理解したうえで、どのような室内環境が必要かを考え、空調や水の流れ、配管の仕様まで細かく設計していくのが、私たちの仕事です。一つとして同じ設計はないからこそ、そのたびにゼロから組み立てていくのは大変ですが、お客様の想いに想像をめぐらせ、一緒に理想の空間をつくりあげていく。そのプロセスにこそ、設備設計の醍醐味があると感じています。

感性を引き出す、「人」に寄り添った設計。

設計者として環境の快適さを追求するのはもちろんですが、それだけが建築の本質ではありません。教育施設では、「子どもたちが健やかに成長できる環境とはなにか?」という本質的な問いに答えていくことが求められます。とある小学校の設計では、「エアコンありき」の快適性ではなく、人間本来の“温度を調整する力”を引き出すことを重視。校庭に面してドライミストを設置し、玄関には土を使った素材で洞窟のようなひんやりとした空間、階段の手前には放射パネルを設け、校庭から汗をかいて帰ってきた子どもたちが、自然に室内環境に適応できるように、動線上で少しずつ身体を冷やすようにしました。空調の設定温度についても、慣例的に採用していた数値を改めて問い直すことから始め、今回の設計ではどのように見込むべきかを議論しました。意匠・構造・設備の各部門が横断的に連携し、「冷やし過ぎない工夫」を積み重ね、無理なく、心地よく過ごせるよう整えた空間は、子どもたち自身のからだが“環境に適応していく力”を育む場にもなったと感じています。
また、教育施設では設備自体を“教材”として見せることもあります。あえて剥き出しにしたり、配管や空調の仕組みを視覚化した展示パネルや、今の建物の状態をリアルタイムに表示するモニターを設けることで、子どもたちが環境に配慮した建築に意識を向けるきっかけになります。設備設計とは、単に室温や換気量を整えるのではなく、人間の知覚や感性にも関わる仕事。これからも「人」を起点とした設計を心がけていきたいと思っています。

設計の仕事は、完成してからも続く。

建物が完成すれば、設計の仕事もひと区切り。そう思われるかもしれませんが、むしろ本当の意味での設計は、完成後がはじまりだと感じています。これまで携わったプロジェクトで印象に残っているのは、粉体を扱う研究施設の設計です。通常の空調のように風を送る方式では粉が舞ってしまうため、空気を動かさずに室内の温熱環境を整える必要がありました。そこで、天井に放射パネルを設置し、輻射熱によって冷暖房を行う方式を採用。送風のない環境でも、空間全体を快適な温度に保てるよう計画しました。建物が完成した後には、施工者やメーカーと連携して、実際に室内の温熱環境を実測する調査を実施。得られたデータはお客様に開示すると同時に、専門誌に掲載されたり、私自身も講演会に登壇して調査結果を発表するなど、社会にも発信されました。設計者として、設計して終わりではなく、その後の運用を通じて成果を検証し、社会に還元する。そうした一連のプロセスに携われたことは、非常に貴重な経験でした。設計段階で導いた数値は、あくまで設計時の要望を基に組み立てたものであり、実際の現場における運用と向き合ってはじめて、その妥当性や課題の本質が見えてくるんです。快適性や効率性など、目には見えにくい空調・衛生の分野において、設計者としてどこまで責任を持てるか。どこまで使い手の行動や感じ方まで視野に入れられるか。そうした視点で考え続けることが、自分にとっての設備設計の“理想形”になっています。

Seiya Yonezawa

私が追求したいこと

研究開発施設の省エネルギー化を、どう実現するか。

ZEB(ゼロエネルギービル)など、建物のエネルギー消費を限りなくゼロに近づける取り組みが広がる中、研究開発施設では、実験環境の維持や装置の稼働に多くのエネルギーを要するため、ZEB評価でもその部分は計算対象外となることが多いです。とはいえ、社会からの省エネルギーへの期待は年々高まり続けています。研究環境の高度化と省エネの両立。その難題に対して、建築設計側がどこまで技術的な知見を注ぎ込めるか。先端の動向に常に目を向け、建築を通じてお客様や社会の期待に応えていきたいと思っています。

※所属、仕事内容は取材当時のものです。