【第3回】自然と共生し地域を生かす「木と水の館」ができるまで~君津市八重原公民館~
2017.10.29

45周年エピソードの第3回目は、誌面では扱いきれなかった「君津市八重原公民館(1997年竣工)」のエピソードをご紹介します。
千葉県君津市の自然豊かな場所に、地域コミュニティの拠点として設計した本施設は、プロポーザルで勝ち取った案件です。
本件の設計を担当した、大阪設計室の本田ディレクターに話を聞きました。
提案資料の工夫
プロポーザルに取り組んだのは、本田を筆頭に30代半ばの5名でした。
与えられた提案資料作成期間はなんと一週間。
現地に立った時、この計画地の豊かな自然を活かし切る。という強い想いが湧いた。
そこで、既存樹木を取り込み、隣接地の豊富な地下水を生かすなど、自然と永きにわたり共生していく「木と水の館」という設計コンセプトを考案しました。
先方から求められたプレゼンテーション資料はA3紙面4枚でした。しかし、一週間という短い期間で最大限に設計意図を伝える資料を作成するにはどうする?と追求した提案チームは、A3紙面4枚をバラバラに作成するのではなく、A1紙面1枚に、大胆に図版やスケッチを描き出し、相手に一目で提案の中身が伝わる資料を作成したのでした。
提案資料製作期間中、本田はデザイナーと事務所に泊まり込みで設計を練ったと言います。
プレゼンテーションでは、立地特性に同化した弊社の提案と、建築への造詣を高く評価していただき、弊社の提案をご採択頂いたのでした。
木造在来工法にこだわり、手探りの挑戦
設計がスタートしてからは、社内・社外の協働者を巻き込みながら、みんなで「どうする?」と追求を重ねていきました。
写真にあるコモンスペースの八角形のトップライトは、計画当初は存在せず、屋根はシンプルな寄棟の形状でした。
しかし、この屋根架構は実際にどう造る?と実現方法を追求する中で、張弦材の頂部を八角形のリング状の桁にかけ、下部をテンションリングでつないだ立体張弦梁架構とすることを考案。

このトップライトは、内部空間を豊かにする明かり取りという役割と、屋根架構を構成する上で欠かすことのできない重要な構造部材という役割を兼ねています。

(コモンスペース軸組図)
徹底的に自然素材で仕上げたい!
当時の君津市長から頂いた言葉が、今も印象に残っていると振り返る本田。
施設完成直後に市長から、直してほしいところがあるとのクレームを受け、冷や冷やしながら市長室に向かうと、施設の一部である茶室の床の間の仕上材に関するクレームでした。
なぜ、床の間の床だけが、無垢材ではなく突き板なのか。工事は完了しているが、今一度見直して欲しいと。
本施設は外装も内装も、徹底的に本物の素材にこだわって追求し、実現してきたからこそ、床の間の突き板の風合いが目についたのだそうです。

『こういうのを、タマにキズって言うんだよ。』とのご指摘に恐縮しながらも、設計を評価して頂けたことを感じて大変嬉しかったそうです。
お施主さまからの期待に応え、利用される方々に喜んでもらうために、社内・社外問わず、実現するためにみんなを巻き込んで追求を重ねる歴代の先輩設計者たちの姿勢は、今の設計室の皆に脈々と受け継がれています。
また、本件は新建築(1998年5月号)にも掲載されています。