【第4回】「自然と一体」の学び場へ ~日本大学生物資源科学部1号館・2号館・ガレリア~
2017.11.5
45周年エピソードの第4回目は、「日本大学生物資源科学部1号館(2014年竣工)・2号館・ガレリア(2016年竣工)」を紹介します。
日本大学 生物資源科学部 創立60周年事業の一環として、老朽化した旧施設の解体及び建替えを行い、新たな「生物資源科学部らしいキャンパスづくり」に挑戦したプロジェクトです。

設計を担当した 東京設計室の田村正道ディレクター、佐藤賢志デザイナーに想いを聞かせてもらいながら、どのように使われているのか見学しました。
緑を生かし「自然の摂理」に学ぶ教育環境へ
生物資源科学部のキャンパスは、東京ドーム12個分に相当する広大な敷地があり、学部創設時から教授や学生たちによって連綿と手入れがなされてきた「クスノキの大樹」や「ケヤキ並木」がつくる緑豊かな自然環境が大きな特徴でした。
新しい建物の設計にあたり、日本大学様より「樹木はなるべく伐採せず、植物と共存するような建物にしてほしい。環境科学を学問領域として取り組む学部として、地域の自然環境を残したい。」という強い思いが伝えられたそうです。
設計チームはこれを受け、既存樹林を最大限に生かしたうえで、「自然の摂理を学びながら、自然と人のこれからの在り方を追求する、 活力あふれる教育環境を生み出したい。」と、何度もスタディーを重ねていきました。既存樹木を活かした建物配置はどうあるべきか、生物の細胞分裂や自然界に見られる動的な秩序を形態や構造に組み込めないか、風や採光、温熱環境シュミレーション等、様々な自然外圧の検討が行われました。

検討中のスタディー

自然界に見られるフィボナッチ数列を構造体に組み込んだガレリア
「変化する自然」を豊かに感じられる居心地の良さ
実際に訪れてみると、学部創設時に植えられたクスノキやケヤキ並木と新たにできた建物が緩やかに共存しており、どこにいても樹木を身近に感じる豊かな学習空間が実現していました。低層に抑えられた2号館はケヤキ並木に沿った稜線を描き、四季の変化を身近に感じられる斜めのカーテンウォールが自然と一体となったキャンパスの顔をつくりだしています。

ケヤキ並木に寄り添う斜めのカーテンウォール
1号館は、クスノキの大樹を保全するために前面の出隅部分を切り取ったロビー空間を各階に設けています。風にそよぐクスノキが全面に見え、学生たちが休憩する「和みの場」として使われていました。1号館と本館の間には周囲の樹木と一体化するガラス大屋根のガレリアが、両者をつなぐ動線を印象付けています。

配置計画と動線計画


クスノキの大樹と1号館

1号館と本館をつなぐガレリア
サーモグラフィーで実際に測定してみると、樹木の根元とガレリア下の柱付近の温熱環境が近似していることがわかります。また2号館のロビーの測定では、設計段階の温熱シュミレーションと非常に近い環境が実現しています。建物内外の空間に「自然の木陰」のような環境をつくり出しています。

樹木とガレリアのサーモグラフィー測定

温熱環境シミュレーションと2号館ロビーの実測結果
トップライトが降りそそぐ1号館の「劇場型階段」や、ケヤキ並木が見える2号館の「ロビー」では、休憩時間になるとお弁当を食べる女子学生達や、くつろぐ学生の楽しげな声が聞こえてきます。次の講義の予習をする学生や、うたた寝をする学生など、それぞれに居心地の良い場所を見つけてうまく空間を使っていました。屋内でも「自然の変化」を豊かに感じられることが、居心地の良さにつながっているのではないでしょうか。
※建物の壁や柱の仕上材の木は、本学部の北海道・八雲の演習林が使われています。

光が降り注ぐ1号館の劇場型階段

ケヤキ並木が見える2号館のロビー
「自然の摂理」を謙虚に学び、「自然と一体」となる建築のつくり方は、今も昔も変わらない類設計室の「志」として継承され続けています。自然と共存しながら「活力ある社会」をつくっていくのは、他でもない自分たち自身なのだと気を引き締め、今後とも邁進していきます。
※本件は、第60回神奈川建築コンクール 一般建築物部門において優秀賞を受賞しました。
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(東京設計室 意匠房 伊賀本 寿徳)