類設計室の人材育成 ~「建築総体力」を獲得する取り組み『ローテーション配転』~
2018.1.26
■建築総体力あっての企画・デザイン・技術力
建築が諸技術の総体である以上、設計事務所にとって企画力、デザイン力とともに、専門技術力が存立基盤となります。それゆえ、類設計室は、企画、計画、意匠、設備、構造、監理の「専門分化」体制を敷き、各領域を高度化させています。
ですが、建築はそれら専門領域が統合されることではじめて実現することができ、専門領域の狭い職能思考だけでは通用しません。「建築総体を対象化する力」があってこそ、専門領域の高度化が図れます。(統合あっての分化)
■建築総体力を獲得する『ローテーション配転』
今回は、「建築総体力」を獲得する取り組みのひとつ『ローテーション配転』の紹介です。
具体的にどんな体制なのか? 効果のほどはどうなのか?
「ローテーション配転」の経験者3名の生の声を紹介しましょう。
一人目は、意匠設計を4年経験した後、設備設計を経験し、現在、構造設計を担っている6年目の【I君】です。彼は今年4月から監理のローテーション配転が予定されてます。
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この2年間は、意匠4年で培ってきたプランニング、法などの建築の知識だけでは太刀打ちできないことばかりです。
設備や構造といったエンジニアの領域では、建築以前に自然現象を深く知ることが不可欠。それを読み解き、空気、気温、水の流れや、建物の骨格となる力の流れを追求します。
そういった自分にとって未知の領域を追求することで、意匠設計で固まった思考の枠が取り払われ、より自由に建築を考えることが出来るようになりました。
そうすると、意匠、構造、設備といった単体を設計するのではなく、各分野を建築としてまとめたい!という想いが強くなっていきました。
構造計画を、デザインや設備計画もイメージしながら組み立てる感覚は、建築の骨格を通して建築全体を統合していく様でかなり楽しいです。
その時によりどころとなるのは、分野によらず共通の軸である「誰のために何を実現したいのか? 」
実現するために分野を越えて追求する。設計の新たな面白さが見えてきました。
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どうですか。すごい成長ですね。彼なら監理の経験を通じ、ひと回りもふた回りも更に成長するでしょう。
次は、意匠設計を4年経験した後、構造→監理のローテーション配転を経験し、昨年の春から意匠設計に戻りサブキャップとして活躍している、現在7年目の【O君】です。
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とにかく「仕事ってこんなにやることあるんだ!(対象世界が広いんだ!)」が、監理室に飛び込んだ瞬間の感覚です。
図面を書くことが建築設計と捉えていましたが、建築設計の世界は想像以上に広い。図面だけを見ていた当時の私は、ちっぽけな視野しか持ち合わせていないこと、組織に守られている存在であることに気づかされました。
現場監理では毎日が、「特定の専門領域だけでは通用しない」、どうにかしたいという想いの連続でした。
めまぐるしく変化する現場の状況に適応するには、工期・コスト・性能(意匠・構造・設備)にとって何が最適かを常に追求する必要があり、現実の問題を目の前に、先輩に聞き回り、なんとか答えを出す連続。これを繰り返す中で、統合された答えに対する貪欲さ、充足感も増していきました。
仕事は、相手が居て、その背後の地域・社会があって、多数の関係者と共につくりあげるもの。机の上だけではなく、現場の人・ものを注視し、持てる力(知力・体力・関係力)をフル稼働して、みんなの意識を統一してたどり着く。やっと建築が出来上がる。
1つのものをつくるエネルギーに、自身の全てをつぎ込めるなんて、「なんて魅力的なことなんだ」と思います。
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彼の入社当時を思い出すと、涙が出そうなぐらいの成長です(笑)
本当に今後の活躍が楽しみです。
最後は、意匠設計2年→計画設計1.5年を経験したあと、昨年の11月から構造設計にローテーション配転になった4年目の【A君】です。
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計画房では事業企画段階や基本計画段階における建築提案を担当していました。
現代は大転換の時代であり、どの物件も変革の期待が非常に大きく、建築設計の難易度も上がっていると感じます。
その中で、計画房時代に『今までに見たことのない建築』が求められ、試行錯誤しながらも、なんとか施主の期待に応えられる計画を提案することができました。
しかし、新しい形態に挑むということは、構造計画にも大きく左右されることになります。そこで、構造設計者にこのデザインは実現可能かを聞くと、技術的には出来ないこともないと回答。そこではじめて、自然の摂理(力の流れ)に則った構造的視点をもって形態を決めてない、自分の力不足を痛感しました。
今、構造設計の仕事をする機会をいただき、その思考に触れ始めたところですが、面白い気づきがありました。それは、構造の知識は安心・安全な建物をつくる上で不可欠ですが、本質は「どこまで自然やモノの気持ちになれるか」。その同化する過程が今は楽しくてしかたがありません。
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まだ短期間の経験なのに自然への同化が成長しています。彼なら、計画設計に戻った時にこの構造設計の経験が、自然の摂理に則った建築デザイン力に昇華するでしょう。
類設計室は、「自分たちの生きる場は自分たちでつくっていく」という志を共にする自主管理共同体の企業です。
だからこそ、『人材がすべて』で、皆が人々の期待に応える力を獲得し成長していくことがすべての実現の基盤です。
ローテーション配転は固定的な制度ではありません。この共同体の組織論理に基づいて、各人材の適正・成長に応じ、柔軟に多様に実施されています。